†葵染 析SIDE†
□べにひめ(跡部編)
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触れてみたかった。
何度も 何度も、
手を伸ばしてお前の髪に、肌に、全てに…
焼けたような紅い唇に全ての欲望を重ねて‥‥
「跡部、今日の日誌何書けばいっかな…?」
机に向かい、シャーペンを弄り回しながら日誌を見つめる岳人に、ジャージから制服に着替えていた跡部が振り返る。
「あ?適当でいいぞ。どうせその頭じゃろくな事思い付かないだろうが」
憎まれ口を叩く跡部に岳人はムッと唇を尖らせる。
「どーせ気の利いた事書けねーよーだっ跡部とか日吉みたいに律義に色々見てらんねーもん」
『日吉』
岳人の唇からその言葉が聞こえるだけで、胸がズキっと痛む。
コイツが好きな奴は日吉若。
知っている。
毎日、仲良く下登校し、毎日毎日一緒に居る所を見ている。
二人の互いを見るまなざしは、好き合っているのが誰の目から見ても解る。
知っている……
俺には向けられない、瞳…。
「‥‥跡部ー?」
急に無言に一点を見つめる跡部に、岳人は声をかける。
「…あ…?」
ハッとし、何でもないふりをしてみる。
「…どしたー?何か心配事か?良かったら聞くぞ?」
無垢な優しさが時折腹立だしい。
赤い髪も、唇も、身体も、心も、
全て俺のモノではない。
何度も繰り返し自分に言い聞かせても、悔しいほど受け入れる事が出来ない…。
「なんでもねぇよ、早く日誌書けよ。日吉待ってんじゃねーのかよ」
自分で発した言葉に傷ついている。
馬鹿らしい…
俺らしくもない…
「あ、今日、日吉家の稽古だから先に帰ったんだ。だからよ、跡部一緒に帰ろ?日誌書き終わるの待っててくんねぇ?」
期待、するな…
一瞬でも…
「あ?何で俺がお前の事待ってなきゃねーんだよ。一緒に帰りたきゃ早く終わらせろ」
少し、声が掠れた…。
何処かで、心の何処かで変な期待が巡る‥。
「えーっ待っててよーいいじゃんか、ケチー」
必死でウンウン唸りながら日誌とにらめっこする岳人を見ていた跡部の頬が軽く緩む
「…えっと、外周10周に、ゲーム2セット…後…感想ー?」
眉を寄せて何度も瞬きをしながら悩む姿に愛らしささえ感じてしまう
きっと、これが一番欲しいモノだ。
金や物、実力や地位。
そんなものはいらない。
欲しいのは、コイツ…
俺のモノにならない向日岳人…
無い物ねだりではない。
確かにココにある想い。
だけど、コイツは‥岳人が好きなのは…
「えーっと…んー‥‥日吉が格好良かったってのはダメだよな、やっぱっ」
照れたように笑みを向ける。
そんなに、アイツが…
日吉が好きなのか…?
そんな顔‥‥俺の事を考える時は絶対にしないんだろ?
いや、
俺の事なんて考えたりしねえだろ?
触れてみたかった。
髪に、肌に…
何よりもお前が欲しかった―…