†葵染 析SIDE†

□ラスト
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瞳にさえ入っていない事はわかってた。



俺には向けられない優しい瞳…



…それでも、良かった…


それでも良かった…



好きだったなんて言わない。



言ったら困らせるから。





…優しい手で


触れないで欲しい…










ラスト












「…と、…おい、岳人っ」



目の前に突然の顔。



「うわっ…な、何?」



「どした?具合悪いのか?」


焦る岳人の顔を覗き込むように宍戸が見つめてきた。


それだけで、鼓動は早くなる


「や、別に。ボーッとしてただけ!大丈夫!」

少し焦った汗を見られたくなく、岳人は顔を反らす。


「…ふーん……お、跡部じゃん。アイツ次の時間体育かよ」


窓の外に居る人の群れの中、一際目立つ姿。


「…まだ外寒いだろーな‥春先でもさ…」


そんな風に見ないで欲しい…



宍戸は跡部が好き。

いつも目に写してるのは知ってる。

跡部もきっと宍戸の事が好きだ。

2人は俺の知らない世界にいる。


「岳人?」


またもボーッとしてしまう俺の頭に、宍戸の手が乗る。


優しい…


優しい…


熱が滲む…



それだけで俺、泣きそうなんだよ?嬉しくて、でも、俺のじゃないから…

俺が触れちゃいけないから…




ずっとずっと好きだったんだよ…?



微笑む宍戸の顔が全てが優しくて



だからかな…


俺がとても荒んでるように思える…



目の前の宍戸は跡部から目を離さない。



どうして俺じゃない?

どうして気付いてくれない?


どうして……



俺は跡部じゃないんだろう…



「あ…」


宍戸が小さく声を洩らす。


外に居た跡部が気付いたから。


宍戸がいつものように舌を出す。


跡部がバーカ、と唇で呟く。


宍戸が楽しそうに笑う。



なんて幸せそうなんだろう…


俺には入り込めない世界…


憎まれ口を叩き合っても、互いをけなしても、それでも解り合ってる2人…


少しでいい、ヒトかけらでいい、一瞬でいい、




俺にください…

宍戸の心を…



我儘な感情ばかり…




それでも、想う事を許して…



目の前に居るのに

俺はきっと瞳にさえ映れていない……


2人は互いを知り尽し、刺激し合っていた…




宍戸の綺麗な髪が

地面に落ちるまでは…




あの日から2人の笑い合う姿は    見れない‥‥


 
 
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