†葵染 析SIDE†

□gateau
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「ん。」



「‥へ‥?」


跡部が差し出したのはCD。

俺は何の事か分からず首を傾げた。



「なんだよ、テメーが俺が聴いてる音楽どんなんだって聞いてきただろ?だから持ってきて貸してやろーってんだよ。」



そういえば…


そんな事言ったっけ…



俺のよく聴いてる音楽が訳わかんねーって跡部が馬鹿にしてきやがって、だったらお前はどんなの聴いてっか聴かせてみろって…


よくそんなの覚えてたなコイツ。


すげぇ忘れてた…




「‥あー‥サンキューな。」


ここは好意を受け取ってやろう。




「俺様がわざわざ持ってきてやったんだ。有り難く聴けよ」



ムカッ



何でコイツはこう上からばっか物を言うんだか!

普通に貸してくれりゃいいんだよっ

恩着せがましい…



「早くテメーのもよこせ」


「は?」


文句の一つでも言ってやろうと構えた所で跡部が手を差し出した。


「あ?何だよ。テメーの聴いてんのをこの俺様が聴いてやるってんだ、早く貸せ」


物借りんにもこの態度かよっ!

何でコイツはこうなんだかっ



「あのなぁ、人から物借りる時くらい…」



あれ?



コイツ確か俺の聴く物なんて興味ないはずじゃ…


なのに何で……



「あん?なんだよ持ってきてねーのか?」



どうして急に?



「あっある…待って…


鞄から今一番気に入って毎日聴いているCDを出す。



跡部がそれを受け取り、


「……興味ねーが、聴いてやるよ」


「はっ?だったらいい、貸さねーから返せっ」


取り替えそうとした俺の手を阻止し、跡部は自分の鞄からプレイヤーを取り出した。



ふと、気付いた。


「あれ…それ俺と色違い…?」


一昨日買ったばかりの俺のプレイヤーと同じ物を持っていた。


「……たまたまだ。最新だし…」


だったら普通、MDプレイヤーの方買わないか?

何でも新しい物好きの跡部にしては珍しい…



…ま、いいか。



「それ、壊したりすんじゃねーぞ」


「あ?んなヘマしねえよ!」


またコイツはこうムカツク事ばっか言うし!



「じゃーな」



俺が頭巡らせている間に、跡部はスタスタと歩きだす。



「…え?」


用、こんだけ?


わざわざCD1枚貸す為にこの暑い中、俺の学校の近くまで来たのか?





「……いつもみたいにロールス呼んだらいいじゃねーか…何でバス待ってんだよ…」



わからない。


いつも傲慢強引俺様のくせに、
時折こんな行動をする。



その度に俺は胸をくすぐられる。



多分、俺は跡部を―…







そんな事を考えながらバス乗り場で跡部と並ぶ。


何となく、バスに乗る理由は聞けなかった。



乗ってからも隣りには座らなく、跡部から借りたCDは何処か気恥ずかしく、跡部の近くでは聴けなかった。



俺の降りる停留所に停まると跡部も降り、俺の帰る方と逆に歩いて行った。



少しだけ振り返った時、

一瞬だけ俺を見たのが分かった。




きっと全部気紛れなんだ。

俺にちょっかい出すのも


こうゆうのも…



言い聞かせた胸は考えとは逆に締め付けられた。
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