†葵染 析SIDE†

□陽蛍。
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夏で


合宿で


少しの間一緒で






日吉が俺の事を







去年見た蛍を思い出して






俺を思い出してくれた









「いくらなんでもここには蛍いねーだろ」



夕食終わり、日吉と川辺に行く事にした。


「…いるかもしれませんよ?」




蛍はきっと口実だったと思う。


二人きりになりたかった





川辺にある桟橋に座り、サンダルを脱ぐ。



「あーっ夜は涼しいー…昼は蒸し暑いよなー」


「そうですね…でも山な分、地元よりは涼しいですよきっと」


日吉が隣りに座る。
珍しく手を繋いで来た。



「…珍しいじゃん。暑いから嫌なんじゃねーの?」


「……別に‥」



照れたように顔を背ける日吉をからかうように身体を寄せた。



日吉がそれに答えるかのように岳人の額にキスをする。




岳人が嬉しそうに笑う。





ふと、岳人の髪に光りが過ぎる。





「あ…」




日吉の声に岳人が首を傾げる。





「…蛍…」



「えっどこっ!?」



「ほら今……向日さんの髪に……」





日吉が伸ばした指先が岳人の髪に触れた。





視線が重なった







日吉の手が岳人の頬に触れた。




岳人は日吉からのキスを待つように、目を逸らさずにいた。



日吉はそんな岳人の内心に気付かず髪を撫で続けた。





「……」





岳人がもどかしそうに日吉を見つめる。




「?……」




日吉が不思議そうに見返す。



「…あー‥もうじれったいっ」



イライラしたように岳人から日吉に唇を押しつけた。



「んっ?!」


唇を突然塞がれ、日吉は目を見開いた。



ゆっくりと唇が離れ、岳人が拗ねたように見つめる。



「……待ってんだから‥‥早くしろよ…」



「え……えっ?」




日吉は戸惑ったように瞬きを繰り返す。



「…しねーんなら‥帰る…っ」



サンダルを履き、岳人は立ち上がる。


日吉は急いでその手を掴み、



「待ったっ……」




身体を引き寄せた。



「すいませんっ…あの‥俺……」





「…蛍…見に来ただけ…?」



岳人が小さく口を開いた。



「…え……?」




「…何かあんのかと思ってた…二人きりになりたかったとかさ…」




岳人は笑った。




陰気な顔でこんな事を告げて、日吉が困らないように



期待してごめんね。
というように





そんな心情に気付き、日吉は岳人を抱き締めた。





「すいません…。何か…色々考えちゃって……」




日吉の腕の中に居る岳人は、静かに耳を傾けた。




「‥二人きりにはなりたかったです。でもきっと俺は貴方を抱いてしまう……いつもそんな風になって‥貴方とはそれだけの関係ではないのに…そう感じさせてたら嫌だとか色々考えてしまって……だから抱くのが嫌な訳ではなくて‥それだけじゃなく、只一緒にこうやって…」




普段言葉を伝えるのが下手な日吉は、どうにか上手く伝えようとするが、感情に言葉が着いていかず、困ったように眉を寄せる。



そんな日吉の言葉に岳人はキョトンとした。



「…え…と‥‥待ってたのはキスなんだけど……」



「…え……」




岳人の言葉に、日吉は頭を巡らせた。






岳人が待っていたのはキス。


それを抱く方だと日吉は捉えてていた。




勘違い。






それを察した日吉は赤面し身体を離し、踵を返し桟橋を、岳人から離れようと早足で歩き出した。



「あ…日吉っ待てよっ…」



岳人は急いで日吉の腕を引いた。



「っ…」




「待てよっ…」





「すいませんが独りにして下さいっ‥今、アンタに合わす顔がありません…ッ」

日吉の声が震えた
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