†葵染 析SIDE†
□べにひめ(跡部編)
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「…お前そんなに日吉の事好きなのかよ…」
唐突な台詞に岳人は瞬きをし、跡部を見つめる。
「‥毎日、毎日…一緒に居て飽きねぇ?ウザくなんねぇのかよ」
ああ、何て…
最低だ…
嫉妬の言葉…
気付かれないように言葉を頭の中に響かせる
岳人がゆっくり口を開いた。
「飽きねーよ。だって毎日違う日吉を見て、毎日毎日、好きが増えてんだもん。自分でも分かんねーけどよ、俺…アイツの事凄く大事なんだと思う。」
岳人は日吉の事を考え一点を真剣に見つめて言葉を零した。
なんだよ…
なんでそんな顔するんだよ…
なんでそんなにマジなんだ?
なんでそんなに好きなんだ?
なんで…
なんで…
今のお前に想われてる奴が俺じゃない…
俺では駄目なのか?
俺だってお前を抱き締め、誰よりも優しくする事くらい出来る。
何が違う?
日吉と―‥‥
どうして…
お前に想われるのは俺じゃないんだろうか…
「…つか何だよ跡部急にーあ、日吉には言うなよ?ハズいからよっ」
照れ笑いする顔が憎くさえ感じた…
「‥‥さっさと書いて帰れ…俺はまだ此所でやる事がある…邪魔だ…」
岳人に背を向け、ロッカーの方を向いた跡部はネクタイを結ぶ。
「え…ちぇー、じゃあ一人で帰るからいいよーだー」
カリカリとノートに字を刻む音が響く。
「…うしっ。じゃあ跡部、俺先に帰るな?お前もなるだけ早く帰れよ?あ、戸締まりよろしくーっ。じゃあなっ」
バタバタと荷物を持ち、背を向けたままの跡部に手を振り、岳人は部室を出た。
遠ざかる足音…。
良かった…
顔、見られなくて…
ズルズル崩れ落ちるように跡部はしゃがみ込む。
「…はっ……」
ボタ、
ボタ、
と床に雫が零れる。
涙だった…。
誰かのせいで、誰かの為に泣くなんて考えもしなかった…
しかも恋…
適わない…
「‥っ……くそっ…」
震える吐息と言葉、
誰かになんて聞かれたくない…
一番は、
岳人に‥‥
適わない。
適わない。
岳人に想われる存在にはなれない……
アイツに想われたい、
アイツに好きになられたい、
日吉より…
誰よりも…!
「‥‥‥‥‥」
我儘は分かっている。
それでも、好きに変わりはなかった。
ゆっくりと立上がり、さっきまで岳人が座っていた場所に腰を降ろす。
まだ温もりがあった…。
日誌を手に取り、パラパラとページを捲った。
感想、何書いたのだろうか…
「……バーカ、後ボレー練もあっただろ…」
悩みながら書いた岳人らしい文字に笑みが零れる。
順に文字を辿り、感想が目に入った。
「……アイツ……っとにバカ…だな…」