おはなし

□想望
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確かにあったのに
朝目覚めるとキミの抜け殻だけが隣にあった。


想望



何度見渡しても見慣れかけた景色ばかり
…あなたはいない。




「……ザックス?」
誰が聞き取れるのか分からないくらいちいさなちいさな声で呟いても
部屋にある電化製品の静かな呼吸する音しか響かない



夜のうちに行ってしまったんだね…

それなら隣に抜け殻だけ寄り添わせるのはなんて酷い人なの……



独りになるのは初めてだった。
故郷には母が
ここへ来てからは寮に入り、キールという冷たいのか優しいのかよく分からない騒がしい奴と同室で
今までの人生で独りぼっちになるということは今この時が初めてだった。



自分が弱いから側に置いて欲しいとせがんだくせに、なんて自分勝手なことでしょう。

ザックスの邪魔はしたくない
あの人の足枷手枷となって絡み付くなんてそんなことしたら彼は飛べないから



ようやく誇りをてにいれたあの全ての碧を混ぜた群青色の瞳は二度と曇らせてはならない。





何故だか分からないけどザックスはオレに側に居てくれと言ってくれた。



同じ場所、同じ時間、同じもの…


ザックスに受け継がれた誇りをその手にひとりの英雄が翼を折った…

彼は穏やかに微笑みを浮かべ体温をなくしていった。

この世から自分が居なくなったあとの世界はどんなものだろう…


きっと何も変わらずまた朝日が昇りただ日が沈むのだろう





羨ましいという感情が自分を支配していた。


あの人のため表情を歪め、触れたら溢れ出しそうな程に泣き出しそうな顔…


だれかの為に自分の感情を剥き出しにできるあなた…


……ザックスというソルジャーに心を奪われた





あなたに奪われた心…

オレは強くなれたの?
オレは弱くなったの?



離れれば離れるほどに胸の奥から悲鳴が聞こえる…







耐えて。耐えて…

明日の朝まで
今日の夜まで

あと一時間だけ

あと一秒だけ……



「今、何処にいるんだよぉ…ザックス…っ」



「うしろに」


背後から声が聞こえた。
振り返ろうとしたのに抱き締められたせいで視界が真っ黒だった…

1stの制服…
やっぱりどこか危険な場所に向かってたんだね。


「心配かけてごめん。すぐ戻れる内容だったから…」


もぅ。へんなとこで優しくするなよな…

クラウドはザックスの胸になんども頭突きする


「…クラ?」

「心配なんかしてないからな」


クラウドは首までうす赤く染めてベッドのシーツに潜り込んでしまった。



キミのその豊かな表情の変化はどうしたらいいの?
どんどん増えてゆく…
クラウドの感情たち。


「クラウド。それじゃミノ虫だ」
ザックスは笑う

シーツにくるくる巻きになってる先からパラパラと金髪が見えてなんとも綺麗なミノ虫だな。



中で真っ赤なのでしょうクラウドの顔をシーツから探しだす。



「こっち見て、クラウド。」

クラウドは伏せたまま首をふる



「見ないとチューするぞ。」



純粋だなぁ…クラウドは。

ビクッと肩を震わせて恐る恐る顔をあげる。



「見ないで、ザックス。」
「見てないよ。キスするだけ」

クラウドが目を見開いて俺を見上げた。

顎に手をかけてキスをする
眠っていたからか綺麗な唇は少し乾いていたから、舌を使って湿らせて
クラウドはミノ虫状態だから抵抗すら出来ない…

「…っ、んっ…んんっ」


息が苦しいね?
でも、その漏れる声がたまらなく愛おしいんだよ。

「ちゃんと側にいるよ。確認できた?」
名残惜しいけど今は離れてあげる


「……もっと違う方法があるだろっ…////」



「その先をお望み?」
「ちがっ…!!」


「俺は望んでる。」



クラウド。そんなに慕ってくれつつあるのならば、いっそその身に覚えさせてあげようか…







お昼すぎ。
2人で仲良くお昼寝をする
安らかに眠るのは金色ふわふわ抱き心地抜群の抱き枕に巻き付いて眠るザックス。
一方、抱き枕にされ巻き付かれていたクラウドは抜け殻のように苦悶の眠りについていた。






2008.8.29
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想望:慕い仰ぐこと
心待ちにまつこと
 

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