おはなし

きらきらひかる
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例えば空を飛ぶ鳥に
どれだけ君は自由なの?とか

海を泳ぐ魚に
どれだけ君は幸せなの?とか
 
尋ねたとしても
それは各々の価値観だろう…

世界が
自分の目で見て
綺麗に見えれば…



【きらきらひかる】




「君には辛い思いをさせてしまい…申し訳ない」
開口一番、耳に響いたのは落胆を隠せない統括のこの言葉…
報告書を出すためブリーフィングルームへと入ると統括とその隣にセフィロスがいた。


「いいえ。」

形だけの返事をした
自分の耳が驚いている
この抑揚のない声を出しているのは誰か…と。


(俺だよ…)

ザックスは自分を慰めるべく静かに心の中で唱えた

渇いた笑いを出すことさえ辛い…
冷静で居られる自分が悲しくて仕方がない…

そんなような気分…だと思う。


セフィロスが隣で何か聞きたそうな、話したそうな気配を感じて顔を上げたが、それを丁寧に受け答えできるほど自分が大人ではないらしく…
視線をそらしてしまった

そして、そのまま逃げるように部屋をでてしまった。



早足で駆けてもこの気持ちは振りほどけはしない…
何かに追われているような感覚が身体に纏わりついて離れない

ソルジャーであるこの身体が並の運動で息が上がるはずもないのに、心臓が煩わしく騒いでいる


耐え切れずに
その場にずるずるとしゃがみこんだ





とにかく
静かな場所で独りになりたかった。

スラムで知り合ったエアリスの前で、まるで教会に懺悔をする罪人の如く
溢れる涙を流したくせに、
身体の中に蔓延するこの変な霞みは未だに流れ落ちずに身体の中に絡み付き留まっている。


「はぁ。弱いな…俺」

独りになりたいくせに部屋に戻るのが怖かった

独りで考えてしまうと行き着く先が闇になってしまうから…
彼の誇りはセフィロスに預けてきた

今あの人を思い出す物を目の前に置きたくなかった…

あんなに大切にしてもらってたのになんとも弱い自分



弱い
よわい…


頭の中をぐるぐる駆け巡る
掻きむしって

イライラする




「しばらくの間は休め。」

セフィロスはその一言だけ口にした


静かな訓練場の裏手にある木陰に横たわってその言葉を反芻する。
むしろ…なにも考える暇を与えないくらい何かをさせて欲しかった。


そんなの甘い戯言だ…

現実に課せられているのは休息…
いや、休息と言う名目で精神面での問題が喪失するまで前線に出は出せないということだ

そんなこと
わかってる、よ



どうすれば戻れるんだよ…
知る術もなかった。



風が吹いた
自分の心の中のように木々がザワザワと音を立てて揺れる……

「お前たちも悲しいのか…?」



なんて自重気味に呟いていると
かすかに聞こえる音…
土を蹴る硬い軍用靴の音


気になればソルジャーである自分の聴覚を研ぎ澄まして音を追跡する……
4人…こちらに向かってる
どうやら1人を3人が追っているようだ

できれば今面倒に巻き込まれたくない…
静かにして気配を消せばやり過ごせるだろうと目を閉じた。



途端……
追われてるだろう1人が飛んだ

高く飛躍するために強く土を踏んだ音がした





ザックスは慌てて目を開いた
きっと此方へ飛んでくる筈だ……






瞼を開いた瞬間…
目に映ったのは
太陽に透けてキラキラ光る金色

ふわりふわりと揺れて…まるで天使の羽のようだった

「…うわっ」

きらきらひかる金糸を風遊ばせて着地をしようとした瞬間目が合った。



まるで空の一部を切り取ったようなその色

同じ青なのに…まったく違う色



見ほれる…って
あるんだな、

だから情けないことにソルジャーとしての瞬発力とかその他の運動神経とか何一つ発揮できずに、ただ呆然と事の成り行きを見ているだけだった。



追われていたのであろう金髪の一般兵の方がよっぽど俊敏であった

「しまっ…」

大きく弧を描いて受け身を取りつつ、ザックスという障害物を綺麗に避けて着地…しようとしたんだろうが、場所が悪かった







「………クラウド?」
まったく、自分もつくづくお人よしなのだと感じる
自分の腕の中で目を見開いて狼狽しているのは
モデオヘイムで同行していた一般兵だった

ザックスの足に独り着いてきたことから任務中は良く話をしたから覚えていた

顔に似合わない秘めた戦闘能力で幾度か危機を救われている


「ザッ…」
「しっ、静かに」


自分の上に乗せている状態のクラウドを転がして匿う様に被いかぶせた


何でここまでしてクラウドを庇う様な行動に出たのかは分からない…
自分を慕うように憧れるように見つめていたクラウドを自分に重ねたのかもしれない
追われてるであろう連中からクラウドを見えないようにする咄嗟の判断だった

自分のなかに見えないように隠す
それは自然とクラウドを抱きしめるような形になり






「ザックス…あ、の」
気づけばもうその場には誰も居なかった

「あぁ、わりぃ」
抱えていたクラウドを解こうとした時
どうしようもないくらい悲しみが落ちてきた

クラウドから心臓の音がする…
暖かくて
やわらかくて

生きている 


なんだか
言い表すのにどんな言葉を使ったらいいのか分かんないんだけど…

落ち着いたんだ。
その優しい香りに
心の中の靄も…
頭の中のざわめきも…
キミの緩やか鼓動に合わせるかのように静まっていくような気持ちになったんだ。





気づけば縋る様にきつく抱きしめていた



「ごめん…少しだけ」

呟くように出た言葉に返事はなく、
ただ少しだけ早まった心音とためらいがちに触れられた指の感触


それがすべてだった







ぼくらの出会いのそのあとのあと。

『言葉にしなくても伝わる気持ち』






あぁ、どうしよう
目に映る世界が


きらきらひかる


…キミは天使?









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