novel

□1.深い海に沈められた可哀相な人魚姫
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どうして………






そう問い掛けられた質問の答えが中々出せなくて、答えを出すにはきっと莫大なる時間が必要なのかもしれない。
けど、考えて答えを導き出せる物とそうでない物と、この世にはある。


例えば、数学のように必ず答えが出るような問題と、どんなに答えを導き出そうとも導き出せないような数式。
きっといつか終わりがあるように、その問題だってちゃんと向き合えば答えは必ず出てくるのだと、そう思っていた。
けど、そんな数学の理論的答えで導き出そうとしても導き出せない問題がこの世界にはたくさんあるのかもしれない。
理屈じゃない、もっと別の何かが働いているのか。


どちらにしろ、一生考えても無理なのかなと、最近ふとそう思う。



『光、こちらに来て下さい』



僕がそう呼び掛けても中々こちらへ来ようとしない。
扉付近から一歩も動かずただ立っているだけ。
いつもそうだ。僕がこちらにと言っても、中々来ない事。
恥ずかしがって、固まってしまう所はずっと変わらない。
そんな所も可愛いと思う。
再度、こちらにと言えば、直立不動の右足が動きこちらとの距離を縮める。
一歩、また一歩とぎこちないが自分との距離を縮めるも、何故かわずか30aで立ち止まってしまった。



『相変わらずですね』



なんでも光はこの距離まで来るのが精一杯らしい。
この前小さな声でそう言われた。
だから、僕はいつものように手を伸ばし、彼女を自分の腕に納める。
自分の腕にすっぽりおさまるくらい彼女は小さい。
小さい肩幅、小さい頭。身長が小さいというのは彼女にとっては禁句らしい。
「イーグルが大きすぎるから」なんて言われたのを思い出す。
大きいなんてよく分からないが、彼女の身長からすれば自分は大きいのかもしれない。
これが普通だと思っていから、そう言われてびっくりした。
僕より身長の高い友人達がいるので、光に言われるまで気にもしていなかったから。



そんな事を考えつつ自分の腕にいる彼女の温もり。
久しぶりという訳でもない、経った数時間離れていただけでも恋しくなる。
彼女を自分の腕に抱いている時は満たされる心。
そうでない時はすっぽりと穴が空いたよう。
空虚を埋めてくれる唯一の存在。
だけどこれだけでは満足できない。
抱きしめていた腕をそっと離すと、その手は頬へと伸びた。


わかっている。暗黙の了解。
何度もしてきたのだから。閉じる瞼。
塞がれた唇。沈黙の空間にお互いの息遣いだけが聞こえる。
これで隙間が埋まる訳ではないのに求め
続ける。ただひたすらに……。


本能のままに。



もっと………



こんな声が聞こえるような気がしてならない。
もっと、もっと深く。そう、誰も踏み込めやしない海の底に潜って帰れない、誰も見つけられないくらい奥深くに。
二人だけでいい。彼女さえいれば他に何もいらないとさえ思うと同時に、息が出来ないような感覚に時々蝕まれる。
夢をみているのか?夢ではない、けど夢を
見たような感覚に似てる。




苦しく、苦しくて。それでいて切ない感情が未だに身体中を駆け回っていく。
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