□-朝祝-
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時計の針が零時を指したら気に入りの、高価な酒が、噴水のように流れ出す。


歓声と共に贈られる女性達からのプレゼントの数は、日頃の俺の努力の成果。


後輩たちからは、嫉妬よりも羨望の眼差し。



生まれ持った金色、
それはナンバーワンの証。



『おめでとう』

『誕生日おめでとう』



夜のうちだけで何人に言わせたか。



かぶき町、
ナンバーワン・ホスト。
夜の世界で、
俺に勝てる奴は居ない。



--朝祝--




…なーんて、
格好良く決めるのも朝までの話で。


夜の世界で王だとしても、朝が来れば金サンも、普通の人間なわけよ。


やっぱ一人の人間として、最低限お誕生日を祝って欲しいお相手が居るわけなんだけど…、




仕事が終わってからのぞきこんだプライベート用携帯は、ウンともスンとも鳴いた様子は無い。


受信メールはメルマガだけで、問い合わせても、新着メールは一件も無し。




先週お前に言ったよね、
俺あれほど言ったよね、

『10月10日、金サン誕生日だから!!』って…

こんなに覚えやすい誕生日って無いと思わない!?




友達なら別に構わないんだけど、恋人よ、俺たち恋人よ!?
そりゃあ夜中は仕事中だけど、でもせめて、
零時きっかりに


お誕生日おめでとう☆


なんてメールくれても良いと思わない!?


もしも零時きっかりに着信があったら、仕事投げ出して電話出ちゃうから俺、





…って有るわけ無いか。
お前からの祝いを期待した俺がアホっつーか、お前がそういう奴だっていう事は良く分かってんだけど…



いつだって自由気ままなお前。
金サンは意外と尽くすタイプなんですけどねぇ。
なんであいつなんかに惚れちまったんだかなぁ。



落胆通り越したら段々とイライラしてきたので、
当てつけに朝の清々しい空気を吸い込む代わりに、煙草に火をつけて胸一杯に吸い込んだ。


ぶはぁと、空に向かって煙を吐いた、その瞬間…




「おはよォさん、金色。」



進行方向の先に、大欠伸をしながら壁にもたれかかる、俺の待ち人が現れた。



「な、晋っ!!?

…ってぇか、お前っ、」


たった今臨界点突破中の、イライラの原因が目の前に現れたもんだから、飛び出す不満が止まらない。


そんな俺を眠そうーな顔で見る晋助は、俺の不満にゃ悪びれる様子も無い。
それどころか、


「お前夜は仕事だろォが。」


冷静に返してくる。
…あんたいつも非常識なくせに、そういうとこはマトモなんだねぇ!?





「だからわざわざこうして来てやってんだろ。」



…、え?


予想外の返答が返ってきた。


聞き返すより先に、奴は、近寄って来る。
ふわっと、奴のにおいがした瞬間、頭がくらくらした。


「こんなに早い時間に起こさせて、逆に感謝してほしいくらいだぜ?」



夜は俺が仕事、だから、
朝早くお前が起きてきて…



奴は、俺の生まれ持った金色の糸をふわりと撫でた。
奴の指を感じる度に、体がビリビリと感電する。




そして奴は、耳元で呟いた。


「誕生日おめでとう、金時。」



と。
耳がぞくぞくする。
それが、聞きたかった。
あんたの声で、
あんたの口から。




ずりいなぁ、奴の存在を感じる度に、俺の細胞が喜んでんのが分かる。


おかげで不満なんか、どっかにふっ飛びそうだけど、




誰よりも先に、お前の口からその言葉、聞きたかったのも本当なんだぜ。




どれだけ沢山の人に祝われても、どれだけ高価に祝われても、


お前の一言に、勝るものは無いんだわ。




奴の背中に手をまわし、感触を味わった。
俺の愛しい存在が、
俺の存在が生まれた日を祝ってくれる。


なんて嬉しい現実。




ニッと笑う、晋助の唇が欲しくなって、
それを求めようとした瞬間、


俺の頬が、ぶにっとつかまれた。



「んお?しんひゃん?」



「こっからは、お預けだ。その酒臭ェのが抜けるまでな。」


「はぁぁ!!?」




頬から手が、ぱっと離される。そして奴は、くるりと振り返り、さっさと歩いていってしまう。


「うっそォ、そりゃ無ぇだろ晋ちゃーーん!!!」


しばらく立ち尽くして居たが、走って後を追いかける。


自由気ままな俺の恋人。
年に一度のお祝いくらい、遅れた分だけ
たっぷりたっぷり、
祝ってよ。





--朝祝--END
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