□-久夜-
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例えば、
目覚めた世界で
大切な人が側に居てくれる



それが一番幸せな事、
なんじゃあねぇのかな。




「カッコつけて言ってるけど、要はお年玉出せないだけアル。」


「そうですよ、大人になったら分かる、とか言って逃げるのが一番大人げないですよー。」


「あーったく、うるせぇな。ほら早くしろ、肉まん買いに行くぞー、いくつでも買ってやる、1人五個までなー。」


「銀ちゃーん、それっていくつでもって言わないアル。定春、好きなだけ食べて良いよー。」


「ワン♪」


「いやそれは困るから!!万屋破産しちゃうよ!?」





いつか気づく、
これから知っていく。







「もーいーくつ寝ーるとー」

「お年ー玉ー♪」

「ワン♪」




「おいお前ら、元旦っつっても夜中なんだからやめなさい、何その歌、近所迷惑ですよー!!」




喜びも、哀しみも、
今よりも、もっと

これから知ってゆく。



そんなガキどもに、
あの日の想い出を
薄めた大人から
ささやかな応援を。






「初詣ついでに、子供達にお年玉かい。
でもねぇ、銀時。私に言わせてみりゃ、アンタも十分ガキだけどねぇ。」


買い物から帰った後、深夜万屋をこっそり抜け出したのをババアに見つかった。


「で、こんな夜遅くどこに行くんだい。二回目の初詣かい?」


「…どこでも良いだろ。」


目も合わせられず、ぷいとそっぽを向いた。
そんな俺を見て、ババアは煙草の煙をゆらゆらさせながら笑った。


「本当にまだまだガキだねぇ。まぁ止めはしないが、新年の挨拶くらいは来るんだよ。」


ババアの言葉に、ひらりと右手で答えて、さくさくと砂利道を歩き出した。


外は寒い、真っ白い息。
見上げる空には欠けた月。
一週間前はクリスマスイルミネーションが鮮やかだった道も、すっかり取り外されて真っ暗だ。

余計な光が無い分、月が綺麗に、輝いている。



12時過ぎにはあんなに賑やかだったのに、初詣の連中も引きだしたのか、静かな道。
その先には、1人の影が見えた。





「久しぶりじゃね?」



そこで待つ人に、声をかける。



「誕生日も祝って貰って無いからさー、かれこれ何ヵ月ぶりですかねぇ?」


皮肉混じりに話す俺に、ふぅと息をついて話し出す影。



「祝えるわけ無ェだろうが、あんなに賑やかに騒いでて。真選組ともな。」



返された答えに、あの時の記憶がよみがえる。

それを知っているという事は。



「…もしかして、来てた?」


「3人でな。」



意外な答えに、言葉が出なくなる。
その通り、あの日は賑やかな誕生日だった。誰が広めたのか、あっちこっちから祝ってきやがって。


嬉しかった。


今までに無かったくらいの祝い。
今までの懐かしい顔は、一つもなかったけれど。




そうか、
来てたのか、3人で。


「流石に俺もヅラも、真選組に会うのはごめんだったからなァ。でも、大分楽しそうだったじゃねェか。」

あー、しくじった。
会ったら嫌味の一つも言ってやろうと思ったのに、しっかりと返されてしまった。



「…今日は1人?」


「ああ。」



寒ィな、と月を見上げる。久しぶりに会う高杉。
口から溢れる白い息すら勿体無くて、それごと吸い込んでしまいたくなって、口づけた。


冷えた体と対照的に、触れ合う舌は、熱かった。
しばし絡み合った後、名残惜しげにゆっくり離れる。


「で、どこ行くんだ?車の一台も無ェのか手前ェは。」

「有るわけ無ぇだろそんなもん。歩くぞー。」


絡み合わせる指と指。
雄、雌じゃないのにさ、
細胞がね、求めるんだよ。
お前に触れたいって。


「こんな時間、どこも開いて無ェだろうが。正月だし。」


「ラブホは開いてんじゃね?かきいれ時だし。あ、でも休憩料金ね、高いから。」


「…帰るか。」


「そんな事言うなよ、待てって。」



するりと絡めた指から逃げ出した高杉は、さっさと先を歩いて行ってしまった。

が、突然くるりとこちらを振り返った。



「そういやァ、遅くなっちまったが。」



「ん?」



「誕生日おめでとう、銀時。」



ずっと欲しかったけど、すっかり忘れていたその言葉。



「……遅ぇよ。」


ふっ、と、
自然に口角が上がってしまうのを感じた。



先を歩く高杉に追い付いて、がしっと肩を抱いた。
相変わらず、俺よりだいぶ低めの位置にある肩が愛しい。


夜が明けるまでの間だけど、隣で眠ってよ。
久しぶりに。




「あ、忘れてたけど。」


俺の声に、ふいと俺の顔を覗き込む。


「明けましておめでとさん。」



今年もよろしく、とは、

言えないんだけど。



可愛く無ぇ笑顔で返す相手を、ぎゅっと抱きしめた。








久夜


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