創
□--*8月10日*--
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辰馬に渡されたメモの場所へたどり着いた時、見覚えの有る後ろ姿がそこに有った。
「ヅラ…」
「ヅラじゃない、桂だ!!
………、
銀時!?」
思いがけない人物との再会に、ヅラも俺も、思考が一時停止状態になる。
「何でお前ここに居んの!?」
「それはこっちの台詞だ、銀時。」
--*8月10日*--
辰馬のメモに書いてあったのは、とあるホテルの住所だった。
「俺の方は、エリザベスがこのメモを預かったのだ。
辰馬から。」
ヅラは、懐から取り出したメモを俺に渡す。開いてみると、そこには沢山の商品名が書かれていた。
「なんだぁ、こりゃ。」
「『お買い物メモ』だ。
これを買って、この住所に来るように、という伝言だったらしい。」
ヅラをよく見てみれば、確かに、重そうな買い物袋を両手にぶら下げていた。
「辰馬、俺んとこにも来たらしいぜ。新八が伝言頼まれて聞いてきたよ、
8月10日は何の日でしょう〜って。」
その問いに、ヅラが僅かに反応したのが分かった。
「正解は、やきとりの日、だとよ。」
途端、ヅラは子供にいたずらでもされたかのように、驚いた顔をした後にため息をついた。
答えがやきとりの日、の筈ないのだ。
この日は、俺たちにとって忘れられない日
だったから。
今更こんな事を聞くなんて、どういうつもりなんだか。
俺は目の前の、背の高い建物を見上げる。
「…ここの、18階101号室だっけ?辰馬さまご指定の場所は。」
「ああ。」
8月9日、23:50になったらその場所に向かえというのが、辰馬からの最後の指令。
上昇していく展望エレベーターから光る街並みを見下ろしながら、俺はこれから何が起こるのかと、ぼんやりと考えた。
エレベーターは間もなく18階にたどり着き、ついに101号室の目の前に来た。
ここが目的地。
ドアの隣に有る、呼び鈴を鳴らす
と、
「待っとったきにーー!!」
バァン、と、かなり派手な音をたてて扉が開き、今回の首謀者が現れた。
辰馬は驚いている俺とヅラの腕をがしっと掴み、ぐいぐい引っ張りこんだ挙げ句、ポイと部屋に放りこんだ。
「うぉっ!!」
余りの勢いに、その場に二人とも倒れ込んでしまった。
すると、部屋に有るベッドがもそもそと動き、ひょこりと顔を出した人影が一つ。
「辰馬ァ、何頼んだんだ、騒がし…」
その瞬間、はたり
そこに居る全員の時間が止まった。
ベッドの上に居たのは、
とても、
とてもよく知った…
「高す…」
「二人ともよーく来たきにー!!」
辰馬は、ばっと両手を広げて、俺たちの間に割って入ってきた。
「こ…、どういうつもりだ、辰馬ッ!!」
最初に沈黙を破ったのは、先にその部屋に居た人物だった。
「まー、まー、そうカッカせんと♪」
「辰、お前ッ!!」
先客、高杉が辰馬の胸ぐらを掴んだその時、
窓の外が、
パッ
と、光った。
そしてすぐ、
ド ン
という大きな音。
「おっ、始まったきにー!!」
バッ、とカーテンを開けると…、
なんと、そこには、
色鮮やかな、花火が上がっていた。
「ハッピーバースデーじゃ、晋助!!!」
ぽっかーんと、まだ動くことが出来ない3人の目の前には、窓枠の前で満面の笑みの男が1人。
そんな構図にかまわず、窓の外には鮮やかな大輪の花が咲き、音をたてては消えてゆく。
「昔なー、よくこの時期に4人で花火、見に行ったのぅ。」
ドン
ドドン
花火は、忘れていた思い出を空に映し出すかのように、一つ、また一つと
花を咲かせた。
「あぁ、そういえば……、
そうだったな…」
ヅラは、ぼうっと花火を見上げ、呟いた。
辰馬は、ニカッと笑い、
「小太郎、頼んどいたものを出すきに〜!!」
そう言って、ヅラが持ってきた袋を俺達の目の前に高々と掲げた。
「8月10日になったきー!!
今から、晋助の誕生祝いじゃー!!」
辰馬のとんでもない発言に、3人はさらにぽっかーんと口をあけ、ますます動くことが出来なくなった。
辰馬はそんな俺達に構いもせず、手際よく食べ物、酒と並べ、円になるよう全員を座らせた。
頭も働かないまま、空に浮かぶ花火を眺めていたが、そのうち、窓の外は静かになった。
「…そういえば辰馬、今日はここで何か有ったのか。こんな夜中に花火なんて。」
ヅラの質問に、はっと我に返り時計を見やると、既に夜中の0時を過ぎており、
あり得ない時間帯に花火が上がっていた事、そしてついさっき、日付が変わったのだ、という事を、改めて認識した。
「この間のぅ、偶然三郎の親父さんに会ったんじゃ。」
ピクリと、ずっと窓の外に見いっていた高杉が、反応したのが分かった。
三郎は、攘夷戦争時に鬼兵隊として共に戦った仲間。三郎の親父、からくり技師の、源外のじいさんと会ったのか…。
例の祭の一件以降は、しばらく顔を見ていなかった。
「親父さんに会ったら、昔三郎が、゙親父はからくりで花火打ち上げられる゙っちゅう話をしてたのを思い出してな。
『それがさ、また綺麗な花火を上げるんですよ。
俺も負けてられねぇな。』
『そうか。それじゃ、俺の誕生祝いには、お前がとびっきりの花火打ち上げて祝ってくれよ。』
『良いですね!!それじゃあ、総督の誕生日には、親父のよりも見事な花火、打ち上げてみせますよ。』
晋助と三郎で、その話で盛り上がっとったのを思い出してな。
親父さんと、そんな話をしたんじゃ。」
辰馬はその先は言葉にせず、窓枠に手をかける高杉の頭をポンポン、と撫でた。
その時とても小さな声で、高杉が三郎、と言った気がした。
「そんな危険な事をして、また真選組に追いかけられるぞ、あの人は。」
ヅラが微笑みながら言った。今頃真選組は、深夜の花火打ち上げ犯を探している頃だろうか。
いや…、
こんな綺麗なもの、通報する奴も、居ないかもしれない。
「3人とも、今日は突然にすまんかったきに!!
何だか、久しぶりに4人で話がしとうなってしもたんじゃー。」
パチン、と手をあわせる辰馬に、ヅラも俺もため息をついた。
「あーあ、あんなモン見せられちまったら、文句言う気も失せたわ。」
「そうだな。全く、困ったものだ。」
高杉は窓から、花火が終わった真っ暗な空を眺めていた。
「あぁそうじゃ、お前ら、まだちゃんと晋助に言っとらんじゃろ。
言わんか、ホラ〜!!」
俺とヅラは、顔を見合わせる。ヅラは、ふーっと息を吐いた後、高杉に向き合った。
「高杉、お前は学問も身長も誕生日も、何もかも俺に追い付く事は出来ん!!」
真剣な顔になったヅラに身構えた高杉だったが、予想外に売られた喧嘩、彼は臨戦体制に入った。
「あ゙ァ!!?やんのかヅ…」
「誕生日おめでとう、
…晋助。」
それは、昔呼んでた、アイツの名前。今じゃすっかり呼ばなくなっちまったけど。
さっきから予想外の事ばかり起こり、脳からの指令が追い付かなくなった高杉は、どうしたら良いか解らず固まっている。
昔だって、こんなに素直に祝った事なんて無かった気がするし、驚くのも無理無いんだけどさぁ。
ほらっ、と、辰馬に肘で小突かれる。
何てこった。何だか恥ずかしい気分になってきた。
何のバツゲームですか?これは。
「あー……、
なんだ。その、
あれだよ、
晋助、
めでとーさん。」
晋助は、しばらく天と地がひっくり返ったような顔をしていたが、しばらくすると、クックと声をたてて笑い出した。
「…お前ら、気ー持ち悪ィ。」
ん?
何だって?
銀さん、聞き捨てならねぇ言葉を聞いた気がするよ。
「てんめぇ、人がありったけの素直さぶちこめて祝ってやってんのによォ…」
「だから素直になれと前々から言っているであろう晋助!!こういう日くらい、素直にありがとうと言ったらどうだっ!!」
「あっはっは、まっことめでたいのー、晋助〜!!」
そこからは、あの頃に戻ったかのようだった。
いつの間にか夜は更けて、朝目覚めると、晋助の姿は部屋には無かった。
辰馬は、朝日が差し込む窓から外を見下ろした。
「晋助、喜んでたきに。
あ、礼代わりに、アイツ全員にチューしてったきー!!」
なにっ!?と、顔の一部を押さえるヅラと俺を見て、辰馬は大笑いをした。
「お前らの、『チューといえばドコか』っちゅう趣味が丸分かりじゃ!!」
顔の一部を押さえたまま、顔を見合わせるヅラと俺。なんという間抜けな図…
皆、自分の選んだ゙今 ゙を生きている。
一緒に居た俺たちの、
今、帰る場所は、
それぞれ違う。
俺にだって、誰にだって、行こうという道があるから。
ほんの少しの、夢のような時間。
花火が映し出した、過去の思い出。
テレビから、朝のニュースで結野アナの声が聞こえてきた。
『8月10日の今日は、やきとりの日なんですよ!!皆様、ご存知でしたか!?』
「あらら、今日って、マジでやきとりの日なんだ。」
あぁ、そうだ。
新八と神楽に、土産買ってかねぇとな。
定治、あいつも食うかな。食うよなー。
そうして、
俺も
ヅラも
辰馬も
晋助も
それぞれ゙今゙に帰っていく。
「また、4人で花火、見たいのぅ〜。」
朝日は、俺たちを優しく照らす。
8月10日は、あいつの誕生日。
HappyBirthday
to 晋助
from 攘夷ズ