企画☆記念

□二周年&三十万打記念部屋
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ささやかに変わらない日常が

そこにはある


《幸日 -君ノ日常/3の題

  〜1.甘く優しい一時を


ある日突然生まれた感情が、日を増す毎に広がる音を聞いた。

一滴落とされた水面の波紋のように、たゆたう感情の流れが浸透していく。

そんな不意に沸き上がった感情は、ハッと気がついた時には意識の側を泳いでいるもので。
そよ風のみたいに微かに触れるように通り過ぎては、自身の意識を何とはなしにそちらへ誘(いざな)う。

小さく拙い新芽のようなその感情に、そんな婉麗な言い方は、俺みたいな奴には不釣り合いかもしれないけれど。
それでもその感情の矛先である君が、まるで背徳するかのように俺を崇高的に由々してくれるなら、あながちそうしたたいそうな表現をしても咎められないんじゃないか。

…そんな気持ちにさせてくれるのだ。

俺みたいなダメツナと汚名された、掠れるようないち中学生の存在なんかを十代目と慕ってくれる…。
あの抜き出た雰囲気を醸し出す、銀色の笑顔が。



その感情が形になったのは、本当にある日突然だった。

別に意識していた訳ではない。
それまで友人で仲間として見ていた彼が、俺の事で嬉しそうに笑ってくれた…ただ、それだけだった。
理由もほんの些細な出来事だったように思うけど、その笑顔がいつもと違って照れ臭そうに柔らかく微笑んだ様が『綺麗だ』と思った。
そして柔らかく彩られた笑みが、年相応でとても可愛らしかった。

そう思った瞬間、自分は一体何を考えているのか?…と、焦りもしたっけ。
何だか無性にいたたまれない罪悪感に近いものを感じながらも、その日を境に俺は彼の表現から目が離せなくなっていた。

…まあ、離せなくなって…というのもオーバーに聞こえるかもしれないけれど、ただ何とはなしに彼の一喜一憂を気にするようにはなっていたと思う。
笑顔に、悲しそうな顔に、怒り顔に…改めて見ると彼はとてもころころとその色彩を変える。
でも、わかりやすいようでいて、どこか時々掴めない表情を見せるその姿が、とても儚いもののように思えた。

いつも人一倍鮮やかな色彩をしているくせに、その奥の向こうではきっと俺でも知らないような色が隠されているのだろう。
多分人一人、皆が皆それぞれ表と裏に違った表面を持ち合わせていて、それには本当に極僅かにしか触れる事はできなくて。
そう…きっと皆そうなのだ。

ただ俺には京子ちゃんでもリボーンでも山本達でもなく、どうしても彼の…獄寺君のその先を知ってみたい、そんな感情が広がったんだ。

いつの間にか、そうやってどんどん彼に惹かれていく自分に気が付きもしないで。


そんな風にいつしか大きく育まれた感情を抱いていたあの時分、手探りするようにその先を探しながら、俺は一体何を考えていたのだろう。

覚えているのは、並んだ横で笑う少年の笑顔を垣間見ながら、その綺麗な色を見初めるように眺めていたんだと思う。

そうやってまた、自分の中で形として形成されていく、あの温かで優しい感情を育みながら。

ずっと、この銀色に彩られた小さな幸せがある日常が、長く長く…先と呼べる未来まで続く事を願って。


ー…それはきっと、幼い願い事だったのだろう。


皆目変わらない不変な日常が
いつか遠々しいまでに懐かしくなるなんて…

この頃は思いもしなかったから。



ーーだから、

ひょっとしたら、このまま自分の中にある感情を表になんか出さなくても
このままの毎日が続くなら、必要ないんじゃないか…

そんな風に考えていた。

きっとボンゴレの名に縛られて、大人になっても一緒にいられる…そんな約束されたみたいな未来が予想できるのなら。
そんな叶うかも、繋げられるかもわからない…望みの薄い感情を伝えるなんて、わざわざ賭みたいな危険を犯す必要なんてー…。

この頃の臆病な俺には、賭に負けた時の現実をそうそう易々と受け入れられる自信が持てなかったから。
そんな…自分でもカッコ悪い言い訳を盾にして。


もしあの頃、俺がそうして逃げたままでいたならば。

その先にあった日常は、一体どんな色彩をしていたのだろうか。



その先の未来で

たったひと時掠れ見た
あの柔らかく輝かしい銀白の艶やかな色は

はたしてその優しさを
その色としているのだろうか。
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