番外編

□トマトとピッツァとナポリタン
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「今回はすんなりと参加しましたね。彼等と僕との愛の差ですか?」



夜風が気持ちよく頬をなぜる
昼間は暑い日が続いていたが夜になると気温が下がり心地いい気候である

パーティーを抜け出しベランダに出てきた六道骸は風に靡いた長い髪を少し鬱陶しそうに手で束ねた




「……聞いてます?」



聞かれたヴェントは可愛らしくこくんと頷いたが、骸の方へは見向きもしない



「…美味しいですか」



パスタを頬張るヴェントはまたこくりと頷いた




×××



その一皿を食べ終え、口の端についたソースを紙ナプキンで拭き取る
満足そうなヴェントの様子を見て骸はまたヴェントに話しかけ始めた


「君がなにかを食べているところを初めて見ました」

「そう?」

「わざとじゃないんですか?」

「さぁ」

「会話する気あります?」

「まぁ」

「…」


「流石に可哀想かなぁって」


「は?」


話が読めず骸が聞き返すと、やっとヴェントが顔を向けた



「綱吉が。流石に毎回まいかい俺追っかけまわすの大変だろうと思って」


 
飄々とそう言い、今度はピッツァを口に含む




「へぇ。僕はてっきり食べ物に釣られたのかと思いました」


ヴェントの足元には数枚の大皿が重なっていた
骸の言葉にヴェントはびくりと跳ねる


「ふぉんなこふぉふぁいよ」


もぐもぐしながら否定するが否定になっておらず骸は苦笑した



「そんな顔でも笑うんだ」


「へ?」


「いや、だってナポリタンとタラコスパゲティってのが気になったんだ。ほら、日本独特だろ?」


「あぁ。僕も初めは驚きましたね、特にタラコは」


「だろ?結構美味しかった」


「それはよかった」


「六道骸、」


「はい?」


「Buon Compleanno」


「どうも」


唐突に紡がれた言葉に骸は驚きつつも淡白にそう返す
夜空に向かって微笑んで、
今更
と呟いた



「僕の誕生日なんて祝ってもらうようなものじゃないんですよ。テキトーに決めたんですから」


「…そーだな」


「今時、レンタルDVDショップの会員になるのでさえ誕生日が要りますから、テキトーに付けた記号です。名前こそ愛着はありますが、それほど意味はないんですよ」

 
名前すら貰えなかったこどもにヴェントはまた、そうだな、とだけ返した
同じように空を見る
少し曇りがかっていたが星はそこらに見えた



「だから、今更、祝われても、対応に困るだけなのに。どうしてあのお人好しは」


「困るよな、本当。綱吉の場合本気だから尚更困る。飲みたいから騒ぎたいから誕生日パーティの名目で、ならともかくな」


「まったくその通りですね」


「どこまでもお人好しなボスだな」


「困りものです」


クフフ、と笑ってみせた骸をヴェントはちらりと覗き見、続ける



「でもさ、誕生日なんてみんな一緒だよ」


「なにがですか?」


「みんな意味なんてない。自分で覚えてるわけでもないからただ他人が言った数字を信じて記号としてもつんだ。意味なんてどこにもないよ」


「僕には教えてくれる他人がいなかった」


「俺にはいた」


骸がヴェントの顔を見ると、ヴェントは悪戯が成功した時のような顔で笑っていた



「ただそれだけの違いさ」



骸も釣られて笑った
 




「今回は最後までいるんですか?」


「うん」


「雲雀君の時はいなかったのに?それって愛の差…」


「デザートにマカロンが出るんだ。フランス産の」


「…あぁ、成程」



ヴェントは明るいパーティ会場の方へ一歩踏み出すと
くるりと振り返る



「骸も食べよう、マカロン」



差し出された男の手を六道骸は躊躇いがちに取る
さらさらとした手がその手を握り、明るい方へと引っ張った



「…男の手 握っても何も楽しくないのですが」


「珍しく同意見だね」


「…食べ終わったお皿は放置ですか」


「……あとで!」


「………名前」


「うっさい!!」




ヴェントは振り返らず前へ進んで行く
初めて呼ばれた下の名前を噛み締め六道骸は笑った

記号だった筈のそれが意味を持ったのはいつからか






†END†




 

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