番外編

□僕の愛しいいたずらっこ
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それは太陽を雲が隠した時のことだった
天気予報通りに曇りのち晴れとなった、からっと乾いた空気

何をするでもなく青空を悠々と飛ぶ愛鳥を眺めて雲雀は時が過ぎるのを待っていた

そこへ、一人の侵入者

大方ヘビースモーカーあたりが煙草を吸いにベランダへと出て来たのかと面倒に思っていたが、
隣に現れたのは銀色ではなく、藍だった



「ひっばりさーん。主役がこんなところでサボっちゃってていーのかい?」


「僕の勝手だろ…」


「そうは言ってもねぇ。出たくないパーリィに無理矢理引っ張られた俺の身にもなって欲しいよ、主役はいないしさ」


「…捕まった君が悪い」



獄寺の誕生日の時にはしっかりと逃げたこの男(といったら誤りがあるが)は今日は逃げ切れなかったのか
ボスの誕生日には渋々付き合っていたらしいが後に
「悪いけどこういうのは俺に合わない。もう出ない」と漏らしていたのを覚えている

と考えていたら隣から溜息が聞こえた



「本気モードの君んとこのドンから、逃げ切れると思う…?」


「あぁ…災難だったね」



いくら世を憚るポルターレトーレでも、超死ぬ気のボンゴレボスには適わない
周りに被害が出る前にギブアップしたのだという



 
「さて、今日で雲雀は何歳になったのですか?」


「秘密だよ」


にこにこと尋ねて来たからそれなりの笑顔で返してやれば、見事にむくれた顔があった


「そういう顔は女の子の時にやりなよ。その方が可愛げがあって、もしかしたらうっかり秘密も漏らすかもよ?」


くくくと笑ってやると残念!とヴェントは大袈裟に肩を上げる


「女の子バージョンの俺は表情の欠陥が著しくってね、今の姿じゃないと無理無理」


「へぇ、初めて聞いた」


「そうか?」



風が少し冷たい
日本だったらもう桜が散る頃か、と考えながら空を見上げた
いや、もうとっくに散ってるか
そして休日を、楽しんでる



「ひっばりー」



わざわざ返事をしてやる程に僕は優しくない
それを知ってかヴェントは勝手に話を続ける



「雲雀は悲しくないの?」


「は?」



いきなりなんだと首を傾げた
悲しい、に値する出来事がちっとも見当たらない



「なーんでーもなぁーい」



間延びした返事をしてから、唐突にヴェントは自分の指輪を外した
それはもう唐突に

橙色の髪の毛を風に靡かせて少女がベランダの手すりに凭れ掛かる
その顔は見事に無表情だ



「いきなり、どういう心境?」


「別に」



事務所から首切られそうな返答に思わず苦笑する


 


「雲雀」


「なに?」


この僕が、わざわざ返事してやった
そうしないと彼女は多分続きを話さないだろうから




「雲雀、誕生日おめでとう」





「…どうも」


「…それだけ」


「…そう、」


「うん…」





暫くの沈黙の後、ヴェント、いやステラが動いた

手すりに腕ではなく脚を掛けて
バランスよくその上に立ったと思ったら



それはそれは綺麗に笑った





そのまま真っ逆さまに堕ちる彼女


下を見るまでもなく彼女が空を駆け上がる





「誕生日おめでとう雲雀!
俺が逃げ出すこと、しー、なっ!」




人差し指を唇に当て、
それはそれは嬉しそうに笑って、それはそれは楽しそうに空を駆けて行った

そんな少女を見て、今なら年齢やら何やら隠していること全てを白状してもいい気になったのは
誰も知らない秘密の話




曇り空を跳ねる橙は小さくなってやがて藍に代わり見えなくなった







†END†


 

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