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□さよなら、未来に
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「ルーチェ、そのお腹の出っ張り、何処から持って来たのさ」


何よその無機質な言い方、
と母親は笑った











さよなら、未来に












「それに、何回目なの?その質問」


ルーチェはゆっくりとした動きで、自分とバイパーの前のテーブルにティーカップを置いて、
ロッキングチェアに座った


「何度でも、君が答えてくれるまでね」


大きな帽子を取っているルーチェとは対照に、バイパーは部屋の中でもフードを被ったまま、口許だけで皮肉る


「何度聞かれても、秘密よ ひみつ」


自分のお腹を優しく撫でながらルーチェは言う



「ルー…」


「なぁに、バイパー」



ちらりとバイパーの瞳が見えた




「ルー…、ルーは僕を好きだと言った。僕にルーチェをくれるって…」


ルーチェは目を伏せて笑う


「えぇ、私の愛は全て貴女のものよ、バイパー」


でも私は世界のもの




そう言ってもう一度、愛おしそうに腹を撫でた




 

「嫌だよ…僕に全部頂戴よ、ルーの全て、僕が欲しいよ」



「御免ね、バイパー」



「ねぇ、ルーのこと、いっぱい愛した。いっぱいいっぱい、大好きだよ…」



薄く色付いた唇が震えながら言葉を紡いだ


ルーチェは、「うん」と相槌を打つ


「ルー、大好き。いっぱい愛してるのに、足りない?僕にルーチェを頂戴…。何が足りないの…?何があれば、君をくれる?何があれば、世界からルーを奪える??」



「うん、」



「何があればいい?
愛じゃ駄目なんでしょ?
権力、お金?ルー、教えてよ、ルー…」




ルーチェはカップを口許に持って行き、離してまたテーブルに置いた



「…貴女のその間違った考え、私、好きよバイパー」



ゆっくりと立ち上がり、ゆっくりとバイパーに近付くと、
ルーチェはバイパーのフードを取って涙を拭ってあげる




「その出っ張りの方が僕より好きなの?愛してるの?」



「いいえ、貴女だけを愛してるわ。でもこの子は一番大切なの」



「嫌!嫌だ嫌だ、イヤだよ!!そんなの聞きたくないっ!
僕が一番だと、一番好きだと言って!」



バイパー…
とルーチェは困ったように頬に口付けを落とした



 



「バイパー。世界一欲張りさんな私のバイパー。私は貴女が一番よ。でも、この子が一番大切なの。…わかってくれなくてもいいから、聞いて?」



「う、ひっく…。キスしてくれたら、聞いてあげてもいいよ…」




ルーチェはバイパーの涙を全て拭って、ありがとう、と言って唇にキスをした




「私達、きっとこれからすぐに、とてつもない苦しみと困難に遭うわ。…その時私達を、いいえ世界を救ってくれるのはこの子なの」



バイパーがルーチェの瞳に目を合わせると
彼女も泣きそうにその綺麗な瞳を潤ませていた



「ルー、」



「…バイパー、大好きよ。大好き。愛してるわ、ずっとずっと、変わらず…」



「ルーチェ、」



「ねぇバイパー、」



「なんだい、ルーチェ…」





バイパーは自分がして貰っているようにルーチェの頬を撫でた





「バイパー、私達、どうしたら幸せになれるのかな……!」





ルーチェの涙がバイパーの手に伝った







幸せになりたくて強くなったのに、
こんなの、酷過ぎるよ



とルーチェは泣いた










「ルー…、ルーのお腹のその出っ張り、生きてるの?」





「えぇ、生きているわよ。触ってみて?」





バイパーはそっと、
ガラス細工を扱うように
ふわふわな粉雪を掬うように
ルーチェのお腹に触れた






「どう?温かいでしょ?」



「これはルーの体温だけじゃないの?」



「うん。この子の体温よ」



「そっか………温かいよ、ルーチェ」



「あぁ神よ。私達に、幸せを…」



バイパーはそう呟くルーチェの瞳を伝った涙を唇で拭いた





†END†




(ルーチェ、そのお腹の出っ張り、何処から持って来たの?)

(秘密よ、教えてあげないわ)

(僕は君の全てが欲しいよ)

(欲張りさんね)

(何があれば手に入れられる?お金?)

(そんな貴女が好きよ、バイパー)



 


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