モノクローム

□鳥が羽ばたいた、青い空に
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白い部屋の
扉が静かに開いた。





「獄寺君」


「…椎音か、」


「お帰り。大人しく入院してるなんて、らしくないね」

なんか変な感じだ
と椎音は笑った。


「ぁあ。俺も、なんか変な感じがするゼ」

椎音の顔を見られるが幸せに感じるからな
とは獄寺は言わなかった。


自分が学校をサボらなければ、必ず見ていたであろう椎音の顔

それを見た瞬間、今まで張り詰めていた緊張やらなにやらいろいろなものが
一気に解けた。

そのことに獄寺は多少なりとも戸惑いを感じていた





「病院ってあんまり来たことなかったけど、真っ白だね」


獄寺が掛けている布団にそっと手を振れながら、椎音はそこにあった椅子に勝手に座った。


「……座っていい?」

「座ってから聞くな。なにも悪いとは言わねぇよ」


こんなことでさえも素直に『いい』とは言わない獄寺に
椎音はくすりと笑った。



「獄寺君。怪我は?」


「まぁまぁだ。これくらいなんでもねぇ」


「生きてるね」


「あたりめぇだ。てめぇの前にいる俺は幽霊かなんかかよ」


「あ、本物」


椎音の手が獄寺のに触れた。
無事を確認するかのように。




「本物だ」



獄寺の片方の手が椎音の頬に触れた。
自分が生きているのを確認するかのように。











二人は
互いをもっと触れようとして



やめた














「獄寺君」



椎音は泣き出したくなったのを押し堪えて
話し始めようとした



「獄寺君、獄寺君…」

死なないで
と言おうとしてやめた

縁起でもないし




きっと、言ったら彼の枷になる




「獄寺君……」


今度は
好き
と言おうとしてまたやめた


理由は同じ



「…獄寺君……」



 

何も言えないのなら笑い掛けようとした

笑えなかった

笑顔が泣いたように歪んだ





「…椎音」



獄寺は、戸惑っていた





ただのクラスメートなだけの女が
こんなにも自分の名前を呼ぶことを








こんなにも自分を想ってくれることが、










わからなかった










「椎音……なんで、」


声が掠れた





…なんで、俺の為に泣きそうなんだよ



その言葉を飲み込んだ


これ以上椎音をこちらに踏み込ませてはいけないと思い出したから







「椎音………」




獄寺は、

なんで自分はこんなに椎音の名前を呼ぶのかわらかなかった





「……獄、寺君…」




なんで椎音がこんなに自分の名前を呼ぶのかわからなかった














「なんで…」





掠れた声は誰にも届かず


     消えた



自分にさえも
      届かずに




 












「面会終了のお時間です」












我に返り

椎音は軽く挨拶をして獄寺の病室を出た










ぱたり
と閉まった扉


互いが互いの名前を呼ぶ声は


やはり誰にも届かず









     消えた







たまたま見た窓から

青い空が見えた

鳩が飛ぶのを見て


溜息をついた
















(やっぱり、Ti Amo なんて言えないよ…だって言ったら彼の枷になる)

(わかんねぇ事だらけで…キモチ悪ぃ。
…あぁ、今日はまだ十代目のお見舞いに行ってなかった…)




















 

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