モノクローム

□血の飛ぶ世界のビターチョコ
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「今年のバレンタインは何がいい?隼人、」


「あ〜、と……。ビターチョコ」

あからさまにテキトー過ぎる獄寺隼人の発言に椎音は頭にきたらしく、


「十年前みたくチ口ルチョコだけでいいんだね」


と言い放った。


それを聞いた隼人は広げていた書類から顔をあげ、

「手作りしか受け取らねぇ!」

と、珍しく叫んだ。




血の飛ぶ世界のビターチョコ












 





化学室で持参の本を読んでいたら、獄寺君が息を切らせて飛び込んで来た。

「……お疲れ様…」

目一杯
憐れんだ表情を浮かべそう言ったら、


ほんとにな…
と力無く返された。



バレンタインは明日だが、
今日は金曜なのでバレンタイン当日は休み。

獄寺君は恋する乙女達に追われて此処に逃げて来たのだろう。



「はぁ……、もう意味わかんねぇ。なんであんなに必死に俺を追いかけ回す訳?」

溜息と共に漏らされた、他の男子が聞いたらきっと彼は嫉妬で殺されるだろうという苦悩に

私は

獄寺君が綺麗だからだよ、

と心の中のみで同じ様に溜息をついて、読んでいた本をパタリと閉じた。



「大体、バレンタインは明日だろ?なんで今日渡すんだよ。休日渡すのがめんどうなんだったら渡すなっての」

所詮その程度のキモチなんだ、そんなもんいらねぇよ
「なぁ、椎音もそう思わね?」


と独り言の様に呟く獄寺君から聞かれ
困った私は笑って曖昧に返した

 


休日に押しかけられたら間違いなくキレるくせに。

矛盾してるよな…と思ったが、気持ちもわかるので黙ってぉいた。


というか、
こんな話を私に振るということは、私は女の子として見られてないということだよね?

いや、友達として関わりたかったのは私だし、
彼が愚痴を言うのはきっと私にだけだから
嬉しいのだけれど…





ぁあ獄寺君。
私も今日貴方にチョコを渡したい女の子の中の一人です。





わかってたけど、やっぱり受け取ってはくれないよね……。


なんだか涙が出て来たよ…






とにかくバレンタインの話は私には不利だ
と思って、あからさまに話を変えてみた


「そういえば!
数学教えて獄寺君!」


「んあ?いいけど、椎音が数学わかんねぇなんて珍しいな」

お前数学得意じゃん?

と言われて少し照れて、

教科書じゃ意味不明だった
と告げた。


さっきまで不機嫌だったのに、
もう忘れたように数学の問題を覗く彼が可笑しい。
ころころと表情が変わるのが
とても可愛らしいと思った。


「椎音ー、これ、わかんねぇ筈だゼ?中2の内容だもん」


「えっ!?マジでか」

「おう。ここ、提出範囲じゃねぇよ?わかんなくもないから教えるか?」

「いや…。来年教えて下さい」

「ぁんだそれ」



笑う姿は、甘美。

どんな自然物よりも美しく、
どんな人工物よりも輝いて見える


「そっかぁ、悩んで損した気分だよ。…ありがとう」

私も笑ってそう言えば、
獄寺君は今度は照れた様に笑って
「バカだなぁ」

と目を細めた。


み、魅とれて仕舞う……




「ご、獄寺君!!」


「ん?」


声が裏返ったのは気の所為にした。


「ありがとね。
あと、女子達から追い掛けられて疲れたでしょ?これあげる」


ポーン、と不格好な弧を描いて、獄寺君とは少しずれて投げられたそれは、彼が上手にキャッチした。

「流石!」

「お前投げるの下手くそだなー…ってなんだこれ?
チ口ルチョコか?」

「あげる」


獄寺君はさんきゅ、と一言呟いてそれを口に入れた。



…一応これは目標達成、だろうか

「甘いものって、疲れ取れるよな!サンキュー椎音」



鈍感な彼を見て

私は溜息をついた。




 
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