モノクローム

□知らなかった日
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その日の朝から、様子がおかしかった。

9/9から五日後。


何と無く、いつもより嘘っぽい笑顔。

いつもより無理したようなはしゃぎ様から、
何と無くそう感じた。






今思えば最近は様子がおかしかった。

そう、
あの日、誕生日以来から…。



正直うかれてて気付けなかった自分にうんざりだ。











一限目、彼は教室にいなかった。



二限目、化学室にもいなかった。





何と無く、本当に何と無くだけど、
彼を見付けないといけない気がしたんだ。




かばんは教室、

化学室にも、

屋上にも(怖かった)いない。





しらみつぶしに特別教室を当たるか?


いや………




二限目終了のチャイムが鳴った後、私は急いで日程表を見た。

今日一度も使われない特別教室を探すことにしたのだ。




「どうかしたの?椎音ちゃん?」


「ん、ちょっと、野良猫さがしっ」


綱吉君に聞かれてそう答えた。




急がなきゃいけない。

早く会いたい。


獄寺君、

何処!?





 



☆★☆★☆★☆






その教室には、なんとも言えない空気が流れていた。



優しいような、厳しいような
温かいような、冷たいような

でも、
一番強く伝わって来るのは、

苦しみだった。








きっと獄寺君は、この教室に入って欲しくないだろう。


でも、
入らなくちゃいけない。












私は決心し、
獄寺君のいる教室、ピアノの音が絶えず聞こえている音楽室の中へと足を運んだ。






 



「!?…誰だ」



ピアノのねが聞こえなくなり、彼がこっちを振り返った。

発された声は、いつも私に話し掛けてくれるような優しい声ではなく、
流石、不良と恐れられているだけあるというような
重く、暗い声だった。

身体全身が、いま彼に近寄ったら危険だと震えた。

何も言えなかった。








「椎音…、お前か。
見たことも聞いたことも忘れてくれ。そして、出てけ」



低い声は、私を拒絶した。



ここで
私も獄寺君を拒絶したら…彼はどうなる?
私が了承して大人しく帰ったら……


彼は
出て行ったと安心するだろうか



わからない、
わからないけど、

ここで引き下がってはいけないということはわかる。













………手探り状態だった。


何もわからないで、勘と直感に頼って……


いや、
手探り状態だったのは、私が獄寺君に好かれようとしていたからだ。

嫌われまいとしてたから。

そんなの、
ファンクラブだなんだとはしゃいでいる彼女達と同じじゃないか。


格好、悪いじゃないか。






「いやだ。
忘れたくないし、出てかない」


「な!?出て行きやがれ!!」


「やだよ」


「な、んで…?」




「聞きたいから。
獄寺君のピアノ、綺麗」



そうだ。
私は彼に触れたかった。

彼の心に

このピアノは、

「獄寺君の気持ちだね?」



何をそんなに悲しんでるの?


話して欲しい。

わからせて欲しい。

共有したいの。




「お前、バカだろ」



私の有りのままの気持ちを言ったら、獄寺君は苦笑ぎみに微笑んでそう言った。




「ピアノ、似合うね」



「はぁ?柄じゃねぇだろ」



静かに首を横に振って、似合うよ、と呟いた。


その笑顔に、
とは言わなかった。


怒られそうだから。








「聞いて、くれるか?……ピアノ…」





「勿論。聞かせて」





なんだ、
本当は誰かに聞いて欲しかったんじゃないか。



「ありがとう」




彼は美しく笑った。






 
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