頂き小説

□サクラ様より(あやがく)
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触れたいと思った。
声を聞きたいと思った。
特に理由は無かった。
だからこれは恋じゃない。そう思っていた。
でも理由無く無意識に相手のそばに居たいと思う事の方が、大分重症なんだと後から気付いた。


「サカキー!」


今日も彼女は人気者だ。
廊下でワイワイと騒ぐ中心で少し困ったように、でもとても嬉しそうに笑う少女を見て、ヨツノメは思った。
今年の春、初めて担任を持つことになった新米教師ヨツノメは、自分の人生史上初の運命の出会いをした・・・・・・・・自分のクラスの女子生徒に。

明るくてしっかり者で、いつもみんなの中心にいるサカキ。

最初は初めて担任を持つ彼にとって彼女は『頼れる生徒』だった。生徒に対して頼れるはどうかと思うが、実際サカキの話はみんな素直に聞き入れるのでヨツノメにとっては有り難い存在だった。

そんな彼女を目で追うようになったのは自然の事なのか、やはりどこかおかしいのか。
それでも彼の目はいつでもフワフワと揺れる髪の毛を探してしまう。
見つけると嬉しくなって、笑顔を見るたび思う。


(可愛いな・・・・・)


そしてそう思った後に必ずこうも思うのだ。


(Σい、いや違う;生徒として可愛いんだ!何考えてるんだ、オレ;)


誰に対してか分からない言い訳だ。


「・・・・・・ヨツノメ」

「Σっ!?・・・・・・なんだ、キジマか」


突然呼ばれた名前に挙動不審に振り返ると、同期の教師キジマが立っていた。


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・;」


キジマは名前を呼んだきり何を話すでもなくただジーッとヨツノメを見ていた。
その瞳が(何となく)牽制しているような、全てを見透かされるような瞳で、思わず目をそらしてしまう。
視線をずらした先にはサカキがいて、彼女はヨツノメに気付くとハッとしたように近付いてきた。


「先生!」

「え?あ、サカキどうしたの?」


若干動揺を隠しきれない動作でサカキを見ると、彼女は気にした素振りもなくヨツノメの前にノートの束を差し出す。


「これ、提出期限今日までのノートです。まだ出してない人いるけど・・・・・・」


ノート?
ガクッと肩の力が抜けるのが分かった。
確かに自分の担当教科のノートを集めておいて欲しいと頼んでいた気がする。


「ありがとう・・・・・・ヒダカだろう?」


ノートを受け取り礼を言い、ノート未提出者最有力候補の名前を出すと、図星だったらしくサカキは少し困ったような顔でニコッと笑う。


(・・・・・////)


顔が赤いのが自分でも分かる。
キジマの痛い位の視線を背中に感じる。
それでもやっぱり心の中ではこう思う。


(いやいや、違う;生徒として!生徒として!)



新米教師ヨツノメの恋心は、本人の知らない内にこれからも加速していくようだ。



恋芽生え


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