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□I could have cried.
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その人はいつも無口だ。
「風魔」
でも、呼ぶとすぐに来る。
不思議。どこにいても聞こえるのだろうか。
それとも、私の声だから聞こえるのだろうか。
…そうだったらいいと、いつも思う。
彼の紅い髪はとてもキレイだ。まるで夕焼けに染まる空のようで。
触れたい。この手で触れて、撫でて、指で梳いて。
「‥‥‥風魔、」
だけど言葉は喉の奥で詰まってしまう。
きっと、私の気持ちなんか、彼はとっくに気づいている。忍びは人の気持ちに敏感だと、誰かが言っていたから。
ああ、だけど。
無口な彼は、その口と同じくらい気持ちを閉じていて。
私の気持ちに気づいていても、きっと、なんとも思っていないのだろう。
そう、考えると、泣きたくなる。
目が、熱い。
ダメだ。泣いちゃ。
必死に涙を堪えて、風魔に手を、伸ばす。
彼は、動かない。
服の端をキュッと掴んで、彼を見上げる。
目は、見えない。だけど視線が合った気がした。
「‥風魔…」
震える声で、囁くように言葉を紡いでいく。
「…‥す、き‥」
ああ、彼は答えない。
私は笑った。
きっと、今にも泣きだしそうな顔をしていたことだろう。
(好きで好きで悲しいくらい好きなんです)
※どこかのお姫様設定。小太郎は雇われてます。
〈〈配布元:夜風にまたがるニルバーナ〉〉