スマブラ

□禁煙の対価
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ウルフと話した後、角を曲がってすぐの所でアイツがタバコを吸っていた。

「立ち聞きとは、いい趣味してるわね」

そう言いながら口元の煙草を掠め取る。

「たまたまだ。それに、さっき来たばかりだからアンタがウルフと何を話してたかは知らない」

そう言って笑うだけで次の煙草を取り出そうとはしない。
最近はいつもそうだ。
『煙草を吸うな』としつこく言っているからか、私の前では吸うのを諦めたらしい。

ふと、先程のウルフとのやり取りを思い出す。


『そうだな…。あんたが俺様の女になるってんなら、止めてやってもいいぜ?』

『いいわよ。一生煙草を止めて、一生私だけを愛するっていうんなら、ね』


そして、なんとなく言ってみる。

「ねぇ。もし私が貴方の女になってあげるって言ったら、一生煙草を止めてくれる?」

カチャン

目の前の男は、声もあげず持っていたライターを取り落とした。
本気で驚いたみたい。

彼は落としたライターを拾いながら恐る恐るといった様子で口を開く。

「…冗談、なんだろ?」

何かを伺うような視線。
ここで『そうよ』なんて言っても面白くない。
どうせならとことん困らせてやろう。

「冗談に聞こえた?」

そう言って顔を見つめてやる。

「え?いや、その…」

柄にもなく焦る姿が内心おかしくて、更に追い討ちをかける。

「煙草と私、どっちを選ぶの?」
目を見つめて、真面目な表情で問う。

「それは…」

一瞬目を反らした後、見つめ返される。
その瞳の真剣さに、思わずドキッとする。

「俺は…」

「あら、もしかして本気にした?…冗談に決まってるでしょ?」

私はその瞳から逃げた。
自分でも本気になる前に。

「…だよな」

そう言って冷静を装う。
そこにはもうさっきの真剣な瞳は無い。

そう、お互いなんとなく解ってる。
たとえ相手の気持ちに薄々感づいていても、今はまだ言うべきでは無いと。

でも、いつかは。
この気持ちを口に出す日が来るのだろう。
それまでは、もう少しこのままの距離感で。

終わり

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