novel
□青い闇
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遠見が、僕の向い側に座り、ぎこちない手つきでお茶を注いでいる。
それを自分はおとなしく見ている。
その今までにない異常な光景に誰も気付かない。
僕らは一騎の話をよくした。
というか、専ら一騎の話ばかりだった。
お互い彼のことであれば競って話せる、という共通点があった。
竜宮島名物の「寒中海野球」でホームランを一試合で何本打っただの、マラソン、短距離、水泳、とにかくスポーツ関係はぶっちぎり単独首位だの、そのくせ天然で料理上手で、と。
遠見は、僕よりも一騎をよく見ていた。
それはもう、今更嫉妬したところで取り返せるものではなく。
いつか、いなくなってしまったことすら日常に埋もれてしまうのだとしても。
いなくなったことから目を背けることは、彼がここにいたことも否定してしまうように思えた。
僕と遠見は、一騎がいたことをいつか忘れてしまうことを、とても、恐れた。
大事な人がいたことを、ずっと鮮明に覚えていたかった。
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