連載A

□その後…
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僅かに残った桜の花が散る。
…あれから数日という時間が経過した。




此処は城の門前。
目の前には、纏まった小荷物を背負った青年が一人、少し遠い空を見上げている。


軽い風が高い位置で結われた髪をさらさらと揺らし…
私も彼と同様に夏色の空を見上げた。
蒼く青い空は清々しい程に何処までも続いている。
ほんのり鼻を掠めた草の匂いに、私は季節の始まりと終わりを感じた。


今私の目の前にいるの彼の記憶の中には、やはり“過去の私”は居ない。


数日前のあの時。
それはたった一瞬の出来事だった。
ほんの数秒、しかも無意識の状態での事。


私が桜の大木の枝から落ちた瞬。
彼は確かに云った。
私の懐かしい呼び名を…


正直、酷く驚いた。
僅かながらも、もう二度と会えないと心の何処かで思っていた人が戻ってきたのだから。

嬉しかった。
唯一その感情だけが心の奥底から込み上げてきて、大量の涙となって溢れ出た。
しかし、泣き止んだ私の目の前に居たのは、もう一人の彼だったのだ。…






「##NAME1##さん?」


暫く黙り込んでいたせいか、彼は不安気に此方を見ていた。
私は小さく左右に首を振り、安心させるように微笑んだ。

去年とは正反対の立場。


私はそっと彼の手を取った。
一本の綺麗な結が彼の手首できらりと光る。


「」

彼は此方を向くと、「お世話になりました。」と深く頭を下げた。
それからゆっくりと顔を上げ、惚れ惚れするような優しい笑みを作った。

その懐かしい笑みに私も微笑みを返す。



4つの季節をともに過ごし、数え切れない程の、沢山の事を私に教えてくれた人。
ずっと一緒に居られると思っていた、愛しい人。
そんな人のこんな姿を見る事になるなんて―
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