連載A
□その後…
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「…##NAME1##さん…?!」
何者かに呼ばれ、声のした方を向いたと同時。
ざぁっと強い風が吹き、桜の枝が大きく揺れた。
途端。視界はぐるりと歪んで、まるで時間の流れ方が変わってしまったのではと思う程、私の身体はゆっくりとバランスを崩していった。
右手に掴んでいた木の枝が、ポキリと音を立てて折れたのが微かに見える。
着物の裾がふわりと舞い上がり、黒い長髪が視界の隅で靡いている。
―もう駄目だ。
酷く冷静にそう感じ、瞼を閉じた…瞬間。
「…姫様!」
懐かしくも愛しい人の声を私は確かに聞いたのだった。―
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瞼を開くと遥か高い場所に先程の巣が見えた。そして、
「お怪我は…ありませんか?」
すぐ耳元での懐かしい声。
背中からは徐々に温が伝わり、私を支えている逞しい腕にどきりとした。
私は恐る恐る顔を上げ、彼を見つめた。
真っ直ぐ注がれた真剣な眼と不安気に歪んだ眉。
それら全てが懐かしく思え、目頭がぐっと熱くなった。
―利吉。
心の中、愛しい名前を呼んだ。
全身が震えて、上手く声が出ないのだ。
今まで堪え続けた大量の涙が、瞳に溜まり、溢れ、温かい雫が一筋、私の頬を滑った。
もっと確かに今の彼を見つめていたいのに、どうしても涙は止まってくれなくて…
その滴を拭うように、彼の手が頬に触れた。
懐かしい温かみ。
ずっと求めていたモノ。
今目の前にいるこの人は、間違いなく…
私はそっと彼の首に腕を回した。
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