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□WORLD END of Rumheart
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青銅製の脆そうな細いスタンドに、硝子で出来た蝋燭が立っている。
それですらも多少目を疑う光景であるのに対して、全身を赤と青で被ったその人物は何の疑問も抱かないらしい。
ただただ優雅なる手つきでマッチをシュ、と摺り、その手をそのまま蝋燭へ運んだのだった。

「いけないね、女王。また狂う気かい」
ピンクと紫の毒々しい配色をしたストールを身に纏った猫耳の青年が赤青を諫めた。

「悪いがお前にとやかく言われたくはないね」
と対する女王と呼ばれた人物は返す。
目は真剣だった。
「折角この前の芥子の実の呪縛から解かれたばかりだというのになんとまぁ君は」
からかうように猫耳は言う。
「…私は…皆が思うほど強くない…、だから」
「だから、正気を失いトリップしようとしているわけ」
「ち、が」
「違わないよ」
何も、違わない。
ピンクと紫色をしたチェ=シャムはそう言ってふと先の蝋燭に目をやり、それを蝋燭立てごとくしゃりと紙のように握り潰してしまった。

「アリステアがいなくなり、私は、」
「私は?」
「――笑えるほど、無力だ」
そうしてその場で足元を崩し座り込んだのだった。

「君は無力なんかじゃない」
昔と比較して少し寂びれたチェス盤を模したそのホールに、その声は凛として響いた。
女王は相変わらず座り込んだまま微動だにせず、ただ何か不安そうにしていた。
「何と言うか…困るんだ、僕は。君がいないと」


「…僕は」


彼の言葉はそれきり一旦途切れた。

「…聞こえるんだ。歴代の亡き女王たちの声が」
そうして、先の内容とは全く異なる内容を彼の口は紡ぐ。

暗に、もう自分は死ぬのだと、そう言っていた。


「もう覚えてもいないこの国に来る前の記憶すら凌駕し、私はお前を愛していたよ。今この瞬間も。氷のように笑うことすらしなかった私に笑うことを教えてくれたのも、すべてお前だ」
と、女王は言う。
それはどう見ても別れの言葉以外の何物でもなく、更に言えば永久チェシャ猫に会わないのだということも示唆していた。
そして現実、それは間違ったことではなかったし、それ以上に似合う言葉も現実見当たりはしない。
それはまさに"その場に適切な"言葉だった。


唐突に。
「歴代女王たちよ!僕は変化の力を持つチェシャ猫だ!どうかこの人を君たちと同じところにやるんじゃない!」
チェ=シャムが言い放った。
何もないはずの空間から、それでもざわざわとざわめいた空気と声がおこる。

空気は自然と冷たくなっていた。

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