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□狼ちゃんと赤頭巾くん。
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「殺-したい、殺-す、殺-される」
灰色の目と灰色の髪と。
唯一肌だけが白いその子供は慟哭した。

「いやだ、ぁ-だれも…、もう-」

いない。





「…は、ぁ」

狼に育てられたわけではなかった。
ましてや獣としての狼を母、あるいは父に持っているわけでもない。
強いて言うのなら所謂人狼と呼ばれるものと人間とのアイノコなだけだ。
何というか、そう、人狼そのものよりまし。

そうは思いはしたもののそれ以上のことはなく少し笑った。
…馬鹿馬鹿しい。ただの戯れ言だ。


どこか色褪せたしかし鮮やかな色彩としての焦げ茶の毛並みを有した少女だった。
目つきはきつく、髪型は肩口でばっさりと切り落とされたセミロング。
唯一青みを帯びた黒の目がどこか嘘っぽかった。


ふいにガサ、と葉を揺らす音がして少女は我に返った。
森の生き物ならば誰しもが怯むその目で音がした方向を見据える。
どうせ自分より弱い四つ足の生き物か、運が悪くて二足歩行だと思った。



「あ、ぁ」

睫毛の異様に長く、一切の人間的胡散臭さを除いた酷く美麗な人間だった。
それは彼女-通称でいうと狼ちゃんにあたる-に間髪おかずに飛びかかり、喉元を引き裂こうとした。
その真白い足を渾身の力で振り払った狼ちゃんは今度は反対に相手の首をつかみ上げた。


「…人間、どうして私を狙う」
問う。
実際には自分が拘束したその灰色の生き物に見とれていた。
美しいと思った。

「貴様、のような混じりものがいるから妾のような本物が迫害される」
それは喉元を締め上げられているせいかどこか苦しそうにそう言った。

「それが解らぬか。元より、妾より格下の山狼が親では礼儀の一つも覚えてはおらぬだろうがな」

一人称と声とでかろうじて男だと判断が付いた。
首を離して今度はその灰色の長い髪をおもむろに掴んだ。


「どうして貴方には耳がないの」
「……別にないわけでは、」
「隠せるの」
「貴様には隠せぬ。妾は、月狼じゃから、」
「どうして」
「貴様は格下…というか貴様、人の話の腰を折るのはやめい」
そう言って、少年はふ、と笑った。

綺麗。


「あたし、初めてあたし以外の狼に会いました…」
ぼろぼろと何も気にせず泣きじゃくる狼ちゃんを見ていた少年はふいに破顔する。

「お前の事は妾が守ってやろう。お前より妾の方が強いじゃろうからな」
「でもあなた、」
「おおそうじゃった。妾は通称赤頭巾じゃ。本名は別にあるがの」



そうして彼らは出会った。

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