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□狼ちゃんと赤頭巾くん。
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「あなたが…、あなたが真緒ならあたし、どうしたら良いの…っ!!」

お母さんがあたしに、自分のことを食べるように諭したあの日から一瞬たりとも忘れたことのない名前。
安里。
真緒。
ずっと復讐を夢見てきたその人は、今目の前にいて、優しくて。

「ずっとあたし…あなたのこと、」
殺そうと思ってたのに。


「お前、あの時の黒狼と人間の夫婦の子供であるのか」
真緒が驚いたように言う。

そうか、と優しい表情で呟いた。
「妾はそなたになら殺されても異論無い。殺したくば、殺せば良い」
「な、んで」

「償いを、したかった」






「痛…」
心臓が、ちくりと痛む。

「璃憂は何にも悪いことしてないよ…ただ、金狼と銀狼が駆け落ちしたとばっちり」

ステンドグラスの窓からひらりと舞い降りたミミズクに向けて璃憂は話し続ける。
「縞クン…璃憂ね、ずっと探してたんだよ」


「璃憂の初めてを奪ったヒト。」


語り続ける。
「縞クン、縞クン、死にたくない。璃憂は、」
短命。
得てして強すぎるものは短命である。
そういう摂理だった。
強大な力と神々しい程の美貌、それに加えて最強の肉親までを得ている璃憂は長くは生きられない。
そこまでのプラス要素を得ているとなればそのリミットも格別だった。

「食べなきゃ…いけないの…」
唯一命を永らえる方法は、他の力のある生物を喰らうこと。


「希久琉、クスリ、を」
「璃憂、あれは」
「逆らうコトなんて許さない!キミは璃憂の言うコトを聞いてれば…っ」
ゴホッ。
そこで璃憂は激しく咳き込んだ。
慌てて駆け寄る希久琉を突き放して。


天使のように笑う。
「ホラ、希久琉。力をあげるね?どうせ璃憂はすぐなくなっちゃうから」
舌を自ら噛み切って直接希久琉の口内に血を流し込む。

璃憂の力は強大だ。
この世の全ての生物を凌いで強力に作られた狼。
どんな麻薬よりも高い能力を引き出し、その反面依存させる。
一度その力に取り憑かれたものに逃げ道は、ない。


「成功したらもっとイイコトしてあげるからさ」






暫くの間沈黙していた空気が動いた。

「来る」
「え、」

森で1番高い木が音もなく倒れた。

「あ、月狼って耳いいんだぁ」

「貴様、名を名乗れ」
「恐いなぁ。俺は縞。璃憂のナイトだよ」

「縞、だと…?貴様、狼の匂いがせぬが何者じゃ」
真剣な表情で問う。
明確な理由は分からないが、璃憂という名前に何か嫌なものを感じていた。

「俺-?鷹だよ。璃憂の躰に嵌められた鷹」
ま、鷹って言っても色々いるけどね。と付け加えて縞は真緒を見た。

「璃憂がお前を欲しがってる。だから俺は愛しの姫にお前を献上するってわけ」
「…鳥と狼は本来不可侵の筈じゃ。それが何故、」
「……お前…」
たっぷり5秒間の沈黙。

「璃憂が別格だって知らないんだな」



自分が1番だと思っていた。
その力も、絶望も、全て。

それが打ち砕かれた瞬間だった。

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