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□狼ちゃんと赤頭巾くん。
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「わ、大変」
金色の髪をした青年だった。
うっすらと笑みを湛えたその顔は、とても美しくはあったが見ようによってはひたすらに不気味だった。

「真緒が生きてるんだって」
青年の持つ赤と黒のオッド・アイがきら、と光った。


「真緒、とは?」
すぐ側に控えていた真黒な目と真っ黒な髪をしたすらりとした青年が問う。
「…月狼の安里と雪狼の李慧の息子だよ。生きてる、のか……」
ふふ、と笑う。

「食べちゃっても、イイ、かなぁ…」
美味しいんだろうなぁ、と恍惚と言い雪のような白い指で自身の唇をなぞる。
「…イイよね…だって、今まで味見もしたことなかったんだし…」
ねぇ、希久琉。とそう言いながら。
高い棒のようなものの上からシフォンをふんだんに使った衣装を身に付けたまま飛び降りた青年は、さながら雪そのもののようだった。


「もう、我慢限界」

ついでのように右側にいた少年の心臓をえぐり出し、青年は出て行った。




「…真緒、か」
狼ちゃんの呟きは風に乗り、無散した。
誰にも聞こえるはずのないその声はしかし月狼の類い希なる完璧な聴力によって拾われた。

「真緒……か」
赤頭巾くんの呟きは人に届くことはなかった。
「何故昨日初めて会ったお前が妾の名を知っておるか?妾はお前に名乗った記憶はないが」

狼ちゃんの目が見開かれる。


「あ、あなた、真緒なの」
「そうだが」

「安里の子の真緒なの!!?」

風鈴の紙が儚く一瞬硝子に接触するように。
その出会いもあまりにも儚かった。




唇を離した後に引いた銀糸を璃憂は強引に切った。

「璃憂もう我慢出来ないよ……。だからお願い、縞クン」
「大丈夫か?」
「ン、大丈夫…」

「食べさせて」
にっこり。
つつ、となぞった誰のものでもない心臓を、璃憂は見つめていた。

これが。
真緒の心臓だったら。
これが。
月狼の心臓だったら。


「絶品、みたいな」

そう言い残して部屋を去る。
自分の部屋に戻って真緒に関する朗報を待とうと思った。


元四つ足や元二足歩行の死体が散乱する中を、それが壁紙か何かだと言わんばかりにカツカツと軽快に歩いていた璃憂の歩行がふいに停止する。

「おばあさま、おじいさま……あいしてる…」

そこには2人の老夫婦が笑っている。
肖像画にしては不気味なほどリアルに描かれたそれに璃憂は口付ける。


「璃憂、もっと強くなるから。もっともっと強くなるからね」
神がもし本当に使いを地上に遣わせたのならば、彼のこの容姿でのことだろう。
そう思わせるほどに璃憂は神々しい。
す、と肖像画に向かい礼をして立ち去った。

「おばあさま、おじいさま。絶対ね、璃憂が1番だよ」


金の髪を翻して、笑った。

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