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□狼ちゃんと赤頭巾くん。
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…飢えて、いた。

パパとママが最後にあたしに言った言葉を今でもあたしは覚えている。



結局のトコロ二足歩行は二足歩行でしかなく、人狼のように四つ足で歩行は出来ないらしい。
それに劣等感でも抱いたのであろうか。
どうやら世界中で一番偉い生き物は自分たちだと言わんばかりの人間たちは、人狼と人間のアイノコである狼ちゃんとその家族を迫害したのだった。

「月狼の一族にさえお会いできたなら、」
「俺達を匿ってくれるのか?」
「私達は人間とは違う。種族が違うというだけで蔑視したりはしない…!」
母親の方がギリ、と唇を噛んで言った。

憎き人間達。



それから3日。

森の中にいた狼ちゃん家族だった。
その間何も口にしていなかった。
なぜかその森にはどんな動物もいはしなかったからだ。
その時点でおかしいと思うべきだったのだが。

飢えは極限に達し、まともにものも考えられなかった。

「月狼なんていはしないじゃないか…!」
「私が、嘘をついたって言うの!!」
「そうだ、そうだそうだそうだ!月狼なんて嘘だったんだろう!お前の言うことを信じた俺が馬鹿だったんだ!!」


-刹那。



「ま、お…!真緒……!!逃げよ!!妾がそなたの目の前の壁は全て取り除く故!真緒!!」
女の人だった。
全身銀色のとても綺麗な女の人。
一瞬で目を奪われた。

女の人はあたしたちの前で止まってこう言った。
「そなたらも、難儀よのう。混じりものかや?」

そしてふわりと笑った。
「そなたら、妾とここで戦え。人間共が追ってきておるのじゃ。それが終われば恩に報いよう」
あぁ、と言う。
「妾は安里。月狼じゃ。命に背くこと断じて許さぬ」


そういって安里は狼ちゃんを木陰に隠し、来た道を戻っていった。




「安里様、先程のお言葉に…」
「嘘は吐かぬ。必ずや」

銀の髪が赤に染まるまで。






人間たちはいなくなった。

「真緒、こやつらはお前の、」
安里様がママの首を掴んで綺麗に笑った。
「ものじゃ」

切る。
あたしはあまりにもそれが綺麗で目が離せなかった。

「あはははははは!恩に報いたぞよ!妾ら月狼に喰われるとは最高の報いではないか!そなたら幸せよの…
嗚呼…真緒、妾の真緒、強くおなり。妾を越えるくらいにの。よくお食べ。よくお眠り。妾の真緒……」


気付けばあたしは安里様の心臓に刀を刺していた。
安里様はゆっくりと倒れていく。
それはどこか安堵したように。
彼女は全く動揺したりしてはいなかった。

「…ま緒…、真緒、私は、貴方に……」



「ママ!ママ!!嫌だ!死なないで…!!」
ママは少し笑った。

「食べても良いからね」
私を。

それがママの最後の言葉だった。

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